792市調べていると変わった制度に出会う
移住支援金、空き家バンク、お試し移住——これらは多くの自治体にある「定番」の制度です。でも792市も調べていると、「えっ、こんな制度あるの?」と驚くようなユニークな支援制度に出会います。そんな面白い制度を集めてみました。
食の支援
山形県の「食の支援」(米・味噌・醤油の現物支給)
山形県には、県外から移住した人に米・味噌・醤油を現物で支給する県の事業があります。山形は食料自給率が高く、特に米の生産が盛ん。「まず食べるものは心配しなくていいですよ」というメッセージがこの制度に込められている気がします。
令和8年度の内容は、2人以上世帯でつや姫20kg・味噌1kg・醤油1L・県産食品詰合せ1セット、単身世帯で米10kg・味噌1kg・醤油1L・県産食品詰合せ1セットです。転入日の前日までに「やまがた暮らし移住希望登録」を済ませておく必要があります。
**令和7年度まではつや姫60kg(単身40kg)・味噌3kg・醤油3Lで「1年分」と案内されていました。**令和8年度は米が3分の1に減り、代わりに県産食品の詰合せが1セット付く形に変わって、公式から「1年分」の表記も消えています(この記事も当初は「1年分」「一部の市の制度」と書いていました。2026年8月に調べ直して訂正しています)。
量は減りましたが、移住直後の出費が多い時期に食費の負担が軽くなるのは実用的にありがたい制度だと思います。
鳥羽市(三重県)の「水道基本料金1年間免除」
鳥羽市は移住者の水道基本料金を1年間免除。金額としては年間1〜2万円程度ですが、「生活インフラのコストを下げてくれる」という姿勢が伝わります。
現金ではない形で配る支援
山形県の食の支援もそうですが、「お金ではないもの」で配る自治体がいくつかありました。金額だけを他市と並べると実態がずれるので、給付の形とセットで見る必要があります。
香美市(高知県)の「カミカムキャンペーン」(地域電子マネーで配る祝い金)
香美市には、市の地域電子マネー「kamica(カミカ)」で受け取る祝い金が4種類あります(令和8年4月時点)。
| 名称 | 金額 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 引越し祝カミカマネー | 1人につき2万円分 | 令和7年4月1日以降に高知県外から転入し、転入後2か月以上住民登録。転入年度内で満34歳以下。申請不要のプッシュ型 |
| 結婚祝カミカマネー | 1人につき5万円分(夫婦で10万円分) | 令和7年4月1日以降の婚姻で、夫婦とも婚姻日時点39歳以下 |
| 子ども誕生祝カミカマネー | 1人につき5万円分 | 令和7年4月1日以降の出生で、住民登録から2か月以上 |
| 若者出逢い応援カミカマネー | 申請年度内に支払った費用の半額相当分(上限3万円分) | 20歳以上39歳以下の独身者が、高知県の「高知で恋しよ‼マッチング」・県内の結婚相談所・認証を受けたネットマッチングサービスのいずれかを利用した場合。遅くとも申請年度の前年度の4月1日から市に住民登録があることが条件なので、転入直後の人は対象外 |
ポイントは現金ではないことです。kamica は香美市内の加盟店でのみ使える地域電子マネーで、市外では使えません。電子マネーとポイントの有効期限は最終利用日から4年間。引越し祝と誕生祝は申請手続きが要らないプッシュ型で、住民基本台帳への登録から2か月以降に自動で付与される形になっています(4月転入なら7月中旬頃の付与予定)。いずれも予算上限に達した場合は申請可能期間中でも受付終了、と市が注記しています。
深谷市(埼玉県)の引越支援が地域通貨「ネギー」で支給されるのも同じ発想です。金額の大小より「どこで使えるか」を確認したほうがよさそうです。
住まい・不動産のユニーク制度
生駒市(奈良県)の「恋文不動産」
生駒市は「恋文不動産」というユニークな空き家活用プロジェクトを運営しています。空き家の所有者と住みたい人をマッチングするのですが、その過程でお互いに「手紙」を交換するという仕組み。
単なる不動産取引ではなく、「この家に住みたい理由」「この家への思い」を手紙で伝え合う。空き家を「ただの物件」ではなく「思い出がある場所」として扱うアプローチが面白いです。
米原市(滋賀県)の「恋する空き家プロジェクト」
米原市も「恋する空き家プロジェクト」という名前で空き家活用を推進。空き家に「恋する」というコンセプトで、物件との出会いを演出しています。生駒市といい米原市といい、空き家に「感情」を持ち込む自治体が増えているのが面白い傾向です。
市有地の無償貸付
常陸太田市(茨城県)は市有地を無償で貸し付ける制度があります。土地代ゼロで住宅を建てられるという、かなり思い切った施策です。
松原市(大阪府)の「子育て応援シェアプロジェクト」(SNS投稿1件=3万円)
792市を調べた中で、この形式は他に見た記憶がありません。松原市は、市外から転入して市内に住宅を購入した子育て世帯が、指定のハッシュタグを付けてSNSに投稿すると1投稿につき3万円を交付しています(上限10投稿・30万円)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助額 | SNS投稿1件につき3万円(上限10投稿=30万円) |
| 対象 | 令和7年1月1日以降に市外から転入し、転入日に世帯内に0〜5歳の子どもがいる。本人または配偶者が居住用に取得した住宅の所有者(令和7年1月1日以降の所有権登記) |
| 対象SNS | Instagram / Facebook / X / YouTube(ショート含む)/ LINE VOOM |
| 指定ハッシュタグ | #松原市子育て応援シェアプロジェクト |
| 投稿できる期間 | 転入日から1年間 |
| そのほかの要件 | 居住する地域に自治会または町会がある場合は、申請日時点で加入していること |
| 受付 | オンラインのみ・先着順で予算の範囲内。申請期限は令和9年3月31日 |
投稿の中身にも条件があって、自治会・町会の加入促進や活動紹介(またはその感想)が1投稿以上必須。請求時には町会費の領収書や規約の写真まで求められます。同じ日に同じSNSで2件投稿しても1件扱い、同じ内容の投稿を複数回しても1件扱い、非公開アカウントは対象外、といった細かいルールもあります。なお市の結婚等新生活応援補助金(住宅購入で上限100万円)とは併用できません。
補助金というより広報予算に近い発想ですが、金額は本物です。大阪府では国の移住支援金を実施している市町村がゼロなので、そこは使えない。その中で市が独自にこういう入口を作っているのが、調べていて面白いところでした。
子育て・教育のユニーク制度
四国中央市(愛媛県)の「紙おむつ無償支給」
四国中央市は日本一の紙産業の町。1歳未満の子どもがいる保護者に、紙おむつの引換券が最大40枚(対象商品40袋分)交付されます。おもしろいのは財源で、市が紙おむつを買っているのではなく、市内のメーカーである大王製紙とユニ・チャームの2社が提供しています。企業と行政が協力した全国初の取り組みとして平成23年4月に始まった制度です。
明石市(兵庫県)の「5つの無料化」
明石市は全国的に注目されている「5つの無料化」を実施。
- こども医療費無料
- 第2子以降の保育料無料
- 中学校給食費無料
- 公共施設の遊び場無料
- おむつ定期便(見守り付き)
他の自治体が「1つの制度を手厚くする」のに対し、明石市は「5つを同時にやる」ことでパッケージとしてのインパクトを出しています。
真岡市(栃木県)の奨学金返還支援
真岡市は奨学金返還支援最大200万円。若い世代の移住を促すために、奨学金の返済負担を軽減するという発想です。
就業・起業のユニーク制度
飛騨市(岐阜県)の「さるぼぼコイン」
飛騨市は移住者に地域電子通貨「さるぼぼコイン」で奨励金を支給。地域内での消費を促す仕組みで、移住支援と地域経済の活性化を同時に実現しています。
佐賀市のIT企業サテライトオフィス誘致
佐賀市はIT企業のサテライトオフィス誘致に成功。テレワーク移住者だけでなく、企業ごと移住してもらう戦略です。
移住ブランディングが秀逸な自治体
制度そのものではありませんが、移住の「売り方」がうまい自治体も紹介します。
| 自治体 | ブランド/ポータル名 | 特徴 |
|---|---|---|
| 高知県 | 高知家 | 県全体を「大家族」に見立てたブランディング |
| 岐阜県 | ふふふぎふ | 名前だけで笑顔になれるネーミング |
| 西条市(愛媛県) | LOVE SAIJO | 住みたい田舎ランキング全国1位の実績 |
| いすみ市(千葉県) | — | 8年連続ランキング1位という実績がブランド |
| 綾部市(京都府) | 移住立国あやべ | 「立国」という大胆な宣言 |
調べてみて分かったこと
- 地場産業を活かした支援がユニーク。 紙おむつ、つや姫と味噌・醤油、電子通貨
- 現金以外で配る支援がある。 山形の食の支援、香美市のkamica、深谷市のネギー。金額だけ見ると実態がずれるので、使える場所と期限まで確認したい
- 「発信すること」が条件の補助金も現れた。 松原市の子育て応援シェアプロジェクトはSNS投稿1件=3万円
- 空き家に「感情」を持ち込む自治体が増えている。 恋文不動産、恋する空き家
- 明石市の「5つの無料化」はパッケージ力。 1つでは普通でも5つ揃うとインパクト
- 奨学金返済支援は若者向け移住の新潮流。 学生ローンを移住動機に変える発想
- ブランディングの巧みさが移住者数に直結。 高知家、LOVE SAIJO
792市を調べていて一番楽しかったのは、こういったユニークな制度に出会う瞬間でした。「この町はこんなことを考えているんだ」と、制度から自治体の個性が見えてきます。
※ この記事は個人の調査に基づくものです。制度の詳細や最新情報は、必ず各自治体の公式ページでご確認ください。 ※ 調査データは2026年4月時点のものです(47都道府県792市)。香美市のカミカムキャンペーンと松原市の子育て応援シェアプロジェクトは2026年8月4日に追加しました。