子育て世帯の移住、支援はどれくらい違う?
子どもがいる世帯にとって、移住先の子育て支援は最も気になるポイントの一つです。792市を調べてみたら、自治体によって支援の手厚さにかなりの差があることが分かりました。
移住支援金の「子ども加算」に差がある
国の移住支援金には、18歳未満の子ども1人あたりの加算金があります。2023年度から100万円に引き上げられたのですが、すべての自治体が100万円というわけではありません。
| 子ども加算額 | 該当自治体 |
|---|---|
| 100万円/人 | 大多数の自治体 |
| 30万円/人 | 室戸市、駒ヶ根市、安曇野市(令和8年4月1日転入分から)、丸亀市、観音寺市、三豊市 |
| 20万円/人 | 茅野市 |
| 加算なし | 上野原市、串間市、伊那市 |
たとえば子ども2人の世帯で比較すると、100万円の自治体なら加算だけで200万円、30万円の自治体なら60万円。同じ制度なのに140万円の差が出ます。移住先候補を比べるとき、子ども加算の金額は必ず確認すべきポイントです。
子どもの医療費助成 — 「何歳まで」が自治体で違う
子どもの医療費助成は、ほぼすべての自治体が何らかの形で実施しています。ただし対象年齢が違います。
| 対象年齢 | 傾向 |
|---|---|
| 15歳(中学卒業)まで | 以前は多かったが、今は拡大傾向 |
| 18歳(高校卒業)まで | 現在最も多いパターン。全国的に拡大中 |
| 22歳まで | 一部の自治体。大学生世代まで対象 |
ただしこの表が表しているのは「何歳まで対象か」だけです。 対象年齢が18歳までであっても、窓口で自己負担が発生する自治体は珍しくありません。このサイトは長いあいだ対象年齢だけを見て「18歳まで=無料」と読んでいて、2026年8月の調べ直しでかなりの数の誤りが出ました。詳しくは後述します。
792市を調べた中で印象的だったのは、鳥取県では4市すべてで18歳の年度末まで自己負担0円・所得制限なしになっていること。2026年8月に4市を個別に調べ直しても崩れませんでした。
理由は制度の作りにありました。鳥取県特別医療費助成条例が対象年齢と自己負担を直接定めていて、市町村は執行する側なので、市が独自に上限年齢や自己負担を動かす余地が制度上ほとんどありません。山口県のように市ごとにバラつく形とは構造が違います。同じ条例でも、ひとり親家庭や障がい者の区分には所得要件がついていて、「児童」の区分にだけ所得要件の規定がない、という書き分けになっています。
ただし「完全無償」と書き切るのは行き過ぎでした。入院時の食事代、紹介状なしで受診したときの選定療養費、夜間・休日など時間外に別途設定される料金、差額ベッド代・文書料は対象外です(これは全国的に共通する扱いで、萩市の「1医療機関あたり月1,000円」のような上限負担型の自己負担とは別の話)。また受給資格証が使えるのは鳥取県内の医療機関だけで、県外受診は償還払いになります。山陰は県境をまたいだ通院が起こりやすいので、実務上は小さくない点かもしれません。制度の名前も「こども医療費助成」ではなく「特別医療費助成制度(小児)」で、担当も子育て担当課ではなく保険年金の担当課です。
いっぽうで、同じ県のなかでも揃っていない例もあります。山口県についてはこの記事でも県ページでも「全13市で18歳までこども医療費無料」と書いていましたが、2026年8月5日〜6日に13市すべてを担当課ページと要綱で調べ直したところ、実際はこうでした。
| 助成の上限 | 市 |
|---|---|
| 18歳の年度末まで | 下関・宇部・山口・萩・防府・下松・光・長門・柳井・美祢・周南(11市) |
| 中学3年生まで | 岩国・山陽小野田(2市) |
さらに萩市は小学1年生から自己負担があります(通院は1医療機関あたり月1,000円、入院は月2,000円)。「全13市」という断定は取り下げます。 13市に同じ表を当てはめていたのが誤りの原因でした。県内のほとんどの市は「乳幼児医療費助成(就学前)」と「子ども医療費助成(小学生以上)」の2本立てで運用しているので、片方だけを見ると上限を読み違えます。
「18歳まで」でも無料とは限らない
山口県の調べ直しをきっかけに、2026年8月7日に171市のこども医療費の記述を一次情報で確認し直しました。結果、79件の誤りが出ました。そのほとんどが同じ形の誤りです。「対象年齢が18歳まで」と書いてあるページを見て、自己負担の有無を確認しないまま「無料」として扱っていました。
翌8月8日にも、出典が移住ポータルのままになっていた132市を担当課のページで調べ直しています。こちらは142件の出典を検証して61件の記述の誤りが出ました。
実際に見つかった例です(いずれも市の担当課ページで確認しました)。
| 市 | 実際 |
|---|---|
| 北九州市 | 対象は18歳の年度末まで。ただし通院は3歳以上小学校就学前600円/月・小学生1,200円/月・中学生以上1,600円/月(1医療機関あたり)。入院と薬局は無料 |
| 福岡市 | 対象は18歳の年度末まで。通院は3歳以上が1医療機関あたり月500円まで |
| 久留米市 | そもそも中学3年生までで、18歳の年度末までではない。小学生は通院月1,000円・中学生は月1,600円 |
| 姶良市 | 住民税課税世帯は中学校修了まで。高校生年代が対象になるのは住民税非課税世帯のみ |
| 高浜市 | 通院は中学校卒業まで。高校生年代は入院のみ |
| 岡崎市 | 通院は中学校卒業前(15歳到達の年度末)まで。高校生世代は入院のみで、受給者証が出ないので窓口で払ってから申請する償還払い |
| 大府市 | 対象は18歳の年度末までだが、高校生世代の通院は2026年9月診療分まで1割の自己負担が残る(2026年10月診療分から全額助成の予定) |
| 宝塚市 | 高校生世代は入院のみ。通院は中学3年生まで |
| 岡山市 | 入院は18歳まで無料だが、中学生・高校生等の外来は1割負担(ひと月あたり上限44,400円) |
| 金沢市 | 入院は高校3年生等まで、通院は中学3年生まで+1医療機関1日500円。石川県内19市町で唯一の例外で、令和9年1月診療分から通院も18歳まで拡大予定 |
| 廿日市市 | 小学1年生〜高校3年生は通院・入院とも1日500円(通院は月4日目・入院は月14日目まで) |
自己負担でも上限年齢でもない、第3の形もありました。広島市は保護者の所得が所得制限額以上だと、令和8年12月診療分までそもそも補助の対象外になります(扶養親族等0人で532万円、1人で570万円、2人で608万円)。対象になる世帯にも通院の一部負担金があります。令和9年1月診療分から高校生年代まで拡大+所得制限撤廃が予定されているので、いま調べる人は「現時点」と「令和9年1月から」を分けて見る必要があります。
誤りは「有利に見せる」方向だけではなかった
8月8日の調べ直しでひとつ想定外だったのが、香川県の8市です。当サイトは全市に「医療機関ごとに月額上限あり」と書いていたのですが、8市すべての担当課ページを確認したところ、そんな自己負担はどこにも存在しませんでした(県内の医療機関では窓口負担なし)。これまでの誤りは制度を実際より有利に見せるものばかりでしたが、香川は逆に、実際より不利に見せていたことになります。
原因はどちらも同じで、同じ文面を県内の全市に貼ったことでした。定型文で埋めた箇所は、方向を問わず疑ったほうがよさそうです。
県単位でも同じことが起きていました。茨城県の「マル福」には自己負担があり(外来は1医療機関あたり1日600円・月2回まで、入院は1日300円・月3,000円まで)、しかも中学生以上は入院しか対象になりません。中学1年生以降の外来は各市が独自制度で補っていて、守谷市の「すこやか医療費助成」、筑西市の「はぐくみ医療費支給制度」のように名前も内容も市ごとに違います。千葉県も対象年齢は高校3年生相当でほぼ揃っている一方、市町村民税所得割の課税世帯には通院1回・入院1日あたり200〜300円の自己負担がある市が多数ありました。
滋賀県は「年齢が揃っていても自己負担で差がつく」の純粋形でした。13市すべてが18歳の年度末まで・所得制限なしで完全に揃っているのに、小学1年生以降の自己負担金は6市(大津・草津・守山・栗東・野洲・東近江)にあり、7市にはありません。しかも自己負担ありの6市は金額体系が共通で(通院1レセプト500円/入院1日1,000円・月14,000円上限/調剤なし)、これは県が示した基準額です。滋賀県は「事業内容を決めて市町に対し補助金を交付」する立場なので、自己負担なしの7市は市が独自財源で肩代わりしていることになります。
徳島県はもう一段ややこしい形でした。「子どもはぐくみ医療費助成制度」は県と市町村の共通枠組みで、対象年齢(18歳到達年度末)・現物給付・所得制限なし・入院の自己負担なしは24市町村すべてで揃います。ところが通院の自己負担600円だけは市町村が撤廃できるので、そこだけ割れます(徳島・鳴門・吉野川・三好は自己負担あり、小松島・阿南・阿波・美馬はなし)。制度名すら美馬市だけ「みまっこ医療費助成制度」です。
つまり「◯◯県は18歳まで無料」という言い方は、二重に危ういことになります。上限年齢が市ごとに違うかもしれないし、年齢が揃っていても自己負担で差がつくかもしれないからです。このサイトはどちらもやっていました。
上限が18歳を超える例もあります。大野市(福井県)は市内から県内の大学・専門学校等に通う19〜20歳(大学1〜2年生相当)も対象にしていて、通院・入院とも自己負担なし。福井県の市町別一覧で注記が付くのは17市町中この1市だけでした。
比較するときは、対象年齢・自己負担・所得制限の3つを分けて見るのが確実です。制度名も「こども医療費助成」とは限らず、鳥取県は「特別医療費助成制度(小児)」、茨城県は「マル福(小児マル福)」で、担当課も子育て担当課ではなく保険年金の担当課であることが多いです。検索で辿るときは公式名称のほうが早く着きます。
保育料の無償化・軽減
保育料は国の制度で3〜5歳が無償化されていますが、0〜2歳の保育料については自治体間で大きな差があります。
特徴的な自治体をいくつか紹介します。
- 備前市(岡山県): 満0〜5歳の保育料が無料。令和5年4月からは給食の材料費・教材費も免除
- 明石市(兵庫県): 「5つの無料化」で全国的に注目。第2子以降の保育料無料を早期から実施
- 志摩市(三重県): 給食費無償化+保育料軽減のパッケージ
出産祝い金・子育て応援金
出産時の祝い金や応援金も自治体によってバラバラです。
| 自治体 | 制度内容 |
|---|---|
| 志摩市 | 出産祝金20万円+給食費無償(市立小中学校)+家賃補助+奨学金返済支援のフルパッケージ。ただし出産祝金には「出生日の時点で1年以上志摩市に住んでいること」という居住要件があり、満たない場合は出生日から1年経ってからの支給になります |
| 四万十市(高知県) | 出産祝い金あり+独自の子育て支援 |
| 明石市 | 5つの無料化(医療費・保育料・給食費・おむつ・遊び場) |
| 四国中央市(愛媛県) | 紙おむつの引換券を最大40枚(40袋分)交付。1歳未満の子どもがいる保護者が対象。紙おむつは市内メーカーの大王製紙とユニ・チャームが提供しています |
| 豊後高田市(大分県) | 子育て応援誕生祝い金。出生順位別に第1子・第2子10万円/第3子50万円/第4子100万円/第5子以降200万円を、妊娠時から6歳まで分割交付 |
| 松原市(大阪府) | 多子世帯応援補助金。第3子以降の出生時30万円+小学校入学時35万円+中学校入学時35万円=合計100万円 |
四国中央市の紙おむつ支給は、日本一の紙産業の町ならではのユニークな施策で、調べていて思わず笑ってしまいました。市の予算で買っているのではなく地元メーカーが提供しているという建て付けも、この町でしか成立しない形だと思います。
「出生順位別・分割交付」というかたち
出産祝い金は一括で配る自治体が多いのですが、豊後高田市と松原市は出生順位で金額が変わり、しかも節目ごとに分割で交付する設計でした。
| 豊後高田市(大分県) | 松原市(大阪府) | |
|---|---|---|
| 名称 | 子育て応援誕生祝い金 | 多子世帯応援補助金 |
| 金額 | 第1子・第2子10万円/第3子50万円/第4子100万円/第5子以降200万円 | 第3子以降で合計100万円 |
| 交付のタイミング | 妊娠時・出産時・1歳〜6歳の節目(第5子以降は8回) | 出生時30万円・小学校入学時35万円・中学校入学時35万円 |
| 出生順位の数え方 | 18歳到達後最初の3月31日までの子で判定 | 同上(高校生以下の子で判定) |
| 対象になる子ども | — | 令和8年4月1日以降に出生した第3子以降 |
このかたちを見るときに気をつけたいのは、受け取り切るまでに年単位の時間がかかることです。松原市の場合、小学校入学時の35万円は約6年後、中学校入学時の35万円は約12年後の話になります。市は「入学時点で本事業が継続していることが条件」「出生時の交付を受けた方に入学時の交付をお約束するものではありません」と明記していて、その前提を隠していません。出生時から入学時までの間に市外へ転出すると対象外になる点も、両市に共通しています。「最大○万円」の数字だけで比べると実態からずれます。
- 出典: 子育て応援誕生祝い金(豊後高田市) / 令和8年度松原市多子世帯応援補助金(松原市)(いずれも2026年8月時点)
地域による傾向
792市を調べてみて感じた地域的な傾向です。
子育て支援が手厚い傾向の地域:
- 四国: 空き家バンク100%に加え、移住者向けの子育てパッケージが充実
- 東北: 人口減少への危機感が強く、子ども加算や独自の子育て支援に積極的
- 中部: 長野・山梨を中心に、自然環境と子育て支援を組み合わせたアピール
- 中国: 鳥取県・島根県は少子化対策として医療費・保育料の無償化が進む
子育て支援が少なめの傾向の地域:
- 関東の都市部: 東京都多摩地域・埼玉県・神奈川県は、人口流入があるため積極的な施策が少ない
- 大阪府: 33市とも国の移住支援金を実施していないため、子ども加算という形の支援がそもそもない。ただし松原市のように、市独自の「新生活向け補助金」(結婚等新生活応援・多子世帯応援・子育て応援シェアプロジェクト・新社会人応援の4本)を揃えている市もある
「子育て世帯が移住するなら」のチェックリスト
792市を調べた経験から、子育て世帯が移住先を比較する際に見るべきポイントをまとめました。
- 移住支援金の子ども加算額 — 100万円か、それ以外か
- 医療費助成の対象年齢 — 18歳まで無料か、所得制限はあるか
- 保育料 — 0〜2歳の負担額、第2子以降の減免
- 給食費 — 無償化している市が増えている
- 通学環境 — 学校の数と距離、スクールバスの有無
- 小児科・産婦人科の数 — 地方は医療機関が少ないことがある
- 子育て世代の移住実績 — 先輩移住者がいると心強い
調べてみて分かったこと
- 子ども加算は100万円が主流だが、20〜30万円の自治体や、加算のない自治体もある。 子ども2人で100万円以上の差になる
- 医療費助成は18歳まで無料が増加中。 ただし「県内で揃っている」と決めつけないほうがよさそうです。山口県は「全13市で18歳まで」と書いていましたが、調べ直すと13市中11市で、岩国市と山陽小野田市は中学3年生まで、萩市は小学1年生から自己負担ありでした(2026年8月6日に訂正)
- 揃うかどうかは「誰が条件を決めているか」で決まる。ただし二択ではない。 鳥取県が4市すべてで揃っていたのは、県の条例が対象年齢と自己負担を直接定めていて市町村は執行する側だからでした(2026年8月7日に4市を再確認)。逆に山口県のように市が各自で決める県では崩れます。その中間もあって、滋賀県は県が自己負担金つきの基準を示して市町に補助する型なので対象年齢は13市で揃うのに自己負担で割れ、徳島県は共通枠組みのうち通院の自己負担だけ市町村が撤廃できるので、そこだけ割れました。決定主体は制度まるごとではなく、対象年齢・自己負担・所得制限といった項目ごとに違うことがあります
- 同じ「自己負担なし」でも中身が違う。 入院時の食事療養費標準負担額は福井県では県制度として助成対象ですが、石川県の羽咋市・野々市市は明確に対象外と書いています。埼玉県で今回確認した7市も、対象年齢・自己負担・所得制限は揃っていたのに食事療養費の扱いだけ割れていました(東松山=助成対象/鴻巣=平成27年4月診療分で廃止/和光=助成できないものとして明記)
- 政令市・県都だから手厚い、とは限らない。 石川県は10市が「18歳まで・自己負担なし」で揃うなか、県都の金沢市だけが通院を中学3年生までにしています。広島市・岡山市・北九州市・福岡市も自己負担や所得制限が残っていました
- 同じ市でも「乳幼児」と「小学生以上」で制度が別になっていることが多い。 上限年齢は小学生以上の制度のほうに書いてあるので、乳幼児の制度だけを見ると読み違えます
- 「5つの無料化」の明石市は全国的に突出。 他の自治体も追随する動きがある
- 保育料の0〜2歳が無償の市は少数。 ここが今後の差別化ポイントになりそう
- 出産祝い金には「出生順位別・分割交付」型がある。 豊後高田市・松原市。受け取り切るまで年単位かかり、事業の継続が前提になっている
- 子育て支援は「一つの制度」ではなく「パッケージ」で見る。 支援金+医療費+保育料+給食費の合計で比較すべき
子育て世帯の移住は「支援金額が一番大きいところ」ではなく、「子どもが大きくなるまでの総合的なサポート」で選ぶのがいいのかなと思いました。支援金は一度きりですが、医療費や保育料は毎年かかるものなので。
※ この記事は個人の調査に基づくものです。制度の詳細や最新情報は、必ず各自治体の公式ページでご確認ください。 ※ 調査データは2026年4月時点のものです(47都道府県792市)。豊後高田市・松原市の出産祝い金は2026年8月4日に追加しました。山口県のこども医療費は2026年8月6日に13市を再調査して訂正しました。2026年8月7日に171市、8月8日に132市のこども医療費・子育て支援の記述を担当課ページで確認し直しています。